2023年、WordPress サイトのCore Web Vitalsが大幅に向上
「サイトが遅い」「Core Web Vitalsが改善しない」とお悩みのWordPressサイト運営者にとって、朗報です。WordPress公式の発表によると、2023年には全WordPressサイトのCore Web Vitalsの合格率が大幅に向上し、モバイルでは28.31%から36.44%へ(+8.13%)、デスクトップでは32.55%から40.80%へ(+8.25%)改善されました。
この記事では、この大幅改善の背景にある要因と、自社のWordPressサイトでもパフォーマンス向上を実現するための具体的な施策について解説します。特に2023年のWordPress本体のアップデート(6.3、6.4)が与えた影響と、それらを最大限に活用する方法に焦点を当てます。
Core Web Vitalsとは?パフォーマンスが重要な理由
まず、Core Web Vitals(コア・ウェブ・バイタル)の基本を確認しておきましょう。これはGoogleが定義するウェブサイトのユーザー体験を評価するための3つの重要指標です:
- LCP (Largest Contentful Paint):ページの主要コンテンツがどれだけ速く読み込まれるか(読み込み速度)
- FID (First Input Delay):ユーザーの最初の操作に対してどれだけ速く反応するか(インタラクティブ性)
- CLS (Cumulative Layout Shift):ページの読み込み中にレイアウトがどれだけ安定しているか(視覚的安定性)
各指標には「良好」、「改善が必要」、「不良」の3段階の評価基準があります:
指標 | 良好 | 改善が必要 | 不良 |
---|---|---|---|
LCP | 2.5秒以下 | 2.5~4.0秒 | 4.0秒超 |
FID | 100ms以下 | 100~300ms | 300ms超 |
CLS | 0.1以下 | 0.1~0.25 | 0.25超 |
なお、FIDは2024年3月からInteraction to Next Paint (INP)に置き換えられましたが、本記事では2023年の状況を主に扱うためFIDを中心に解説します。
なぜCore Web Vitalsが重要なのか
Core Web Vitalsがビジネスに与える影響は多岐にわたります:
- SEOへの影響:Googleはコアウェブバイタルをランキング要因として使用
- コンバージョン率:ページ読み込み時間が1秒遅延するとコンバージョン率が7%低下するというデータも
- ユーザー体験:速いサイトはユーザー満足度と滞在時間の向上に直結
- 直帰率:3秒以上かかるサイトからは32%のユーザーが離脱するというGoogle調査も
2023年のWordPress パフォーマンス改善の全体像
WordPress公式が発表した2023年のパフォーマンスデータを詳しく見てみましょう。
Core Web Vitals合格率の改善
- モバイル:28.31% → 36.44%(+8.13%)
- デスクトップ:32.55% → 40.80%(+8.25%)
これは2022年の改善率(モバイル+6.99%、デスクトップ+6.25%)をさらに上回る成果です。また、WordPress以外のサイト(非WordPressサイト)の改善率はモバイルで3.68%、デスクトップで5.29%であり、WordPressサイトは全体平均を大きく上回る改善を達成しました。
個別指標の改善状況
各Core Web Vitals指標の改善率は以下の通りです(モバイル):
- LCP:34.48% → 43.37%(+8.89%)
- CLS:74.76% → 78.98%(+4.22%)
- FID:96.55% → 97.42%(+0.87%)
特にLCPの改善が顕著であり、これが全体の合格率向上を大きく牽引しています。FIDは元々非常に高いスコアだったため、改善幅は限定的です。また、TTFBも重要な改善を見せました:
- TTFB(モバイル):18.67% → 21.77%(+3.10%)
- TTFB(デスクトップ):28.44% → 31.97%(+3.53%)
WordPress 6.3・6.4の主要パフォーマンス改善
2023年にリリースされた主要なWordPressバージョン更新と、それらがパフォーマンスに与えた影響を見ていきましょう。
WordPress 6.3のパフォーマンス改善(2023年8月リリース)
WordPress 6.3は特に大きなパフォーマンス改善をもたらしました:
- モバイルLCP:+4.72%(34.46% → 39.18%)
- モバイルTTFB:+0.78%(18.78% → 19.56%)
- デスクトップLCP:+1.96%(48.55% → 50.51%)
特に注目すべきは、WordPress 6.3がモバイルでのLCPを4.72%も向上させたことです。これは主にクライアントサイドの最適化によるものとされています。
WordPress 6.3で実装された主なパフォーマンス改善点:
- ブロックエディタの最適化:レンダリングとロードプロセスの効率化
- スタイル読み込みの最適化:必要なCSSのみを効率的に読み込む仕組み
- JavaScriptのコード分割:必要な機能のみをロードする仕組みの改良
- 画像読み込みの最適化:効率的なリソースロードとレイアウトシフトの軽減
WordPress 6.4のパフォーマンス改善(2023年11月リリース)
WordPress 6.4では以下のような改善が見られました:
- モバイルLCP:+0.30%(37.40% → 37.70%)
- モバイルTTFB:+0.11%(18.21% → 18.32%)
- デスクトップLCP:+0.13%(49.46% → 49.59%)
6.3と比較すると改善幅は小さいものの、引き続き積極的なパフォーマンス最適化が行われました:
- クエリ効率化:データベースクエリの最適化
- キャッシュ機構の改良:オブジェクトキャッシュの効率化
- REST APIのパフォーマンス向上:API呼び出しの効率化
- 管理画面の読み込み速度向上:管理インターフェースの最適化
LCP改善に最も効果的だった施策
2023年のデータから、特にLCP(Largest Contentful Paint)改善に有効だった施策が明らかになっています。LCPはCore Web Vitalsの中で最も改善が難しいとされる指標であり、ここでの進歩は特に重要です。
クライアントサイドの最適化がカギ
WordPress 6.3のデータ分析により、サーバーサイド(TTFB)の改善よりも、クライアントサイドの最適化がLCP向上に大きく貢献したことが明らかになりました。特に効果的だった施策は以下の通りです:
- 画像の遅延読み込み最適化:ビューポート内の重要画像の優先読み込み
- CSSの最適化:クリティカルCSSの優先とレンダリングブロッキングリソースの削減
- フォント読み込みの最適化:display:swapの適用とフォントファイルのプリロード
- メインスレッドの最適化:JavaScriptの実行時間短縮とブロッキング軽減
これらの最適化により、サーバーからのレスポンス後のレンダリング処理が大幅に効率化され、LCPスコアが向上しました。
主要メディアの早期読み込み
特にLCPエレメント(多くの場合、ヒーロー画像やトップセクションの大きな画像/テキストブロック)の読み込みが最適化されました:
- プリロードの適切な使用:LCPとなる可能性の高いリソースをプリロード
- 画像フォーマットの最適化:適切なサイズとフォーマット(WebP等)の使用
- レイアウトシフトの軽減:画像サイズの事前指定とスペースの確保
- リソース優先度のヒント:fetchpriorityなどのヒントによる重要リソースの優先読み込み
ウェブ全体へのWordPressの貢献
興味深いことに、WordPressの改善がウェブ全体のCore Web Vitalsスコア向上に大きく貢献していることも明らかになりました。
2023年の全インターネットサイトのCore Web Vitals改善データによると:
- 全ウェブのモバイルCWV改善率:5.35%
- そのうちWordPressの貢献:1.67%(約31%)
- 全ウェブのデスクトップCWV改善率:6.26%
- そのうちWordPressの貢献:0.97%(約15%)
これは、WordPressの改善がインターネット全体のパフォーマンス向上に直接的な影響を与えていることを示しています。WordPressがウェブの約43%を占めることを考えると、WordPressのパフォーマンス改善はインターネット全体の健全性に大きく貢献しています。
自社サイトで実践できるパフォーマンス最適化施策
これらのデータと知見を基に、自社のWordPressサイトでも同様のパフォーマンス向上を実現するための具体的な施策をご紹介します。
基本的な最適化施策
- WordPress本体の最新版へのアップデート
- 最新のWordPressバージョン(現時点では6.5以降)にアップデート
- テーマやプラグインの互換性も事前に確認
- 高速ホスティングの選択
- マネージドWordPressホスティングを検討
- PHP 8.x以上、NVMe SSDなど高速環境を選択
- サーバーロケーションを主要ユーザーに近い場所に
- キャッシュの最適化
- サーバーレベルキャッシュの有効化
- ブラウザキャッシュの適切な設定
- オブジェクトキャッシュ(Redis/Memcached)の活用
- 画像の最適化
- WebPやAVIF(WordPress 6.5以降)など最新フォーマットの活用
- 適切なサイズと圧縮率の設定
- レスポンシブ画像の使用
LCP向上のための施策
特にLCP向上に効果的な施策を実践しましょう:
- クリティカルCSSの最適化
- 「above the fold」コンテンツに必要なCSSのみをインライン化
- 不要なCSSの遅延読み込み
- CSSの最小化と圧縮
- JavaScriptの最適化
- レンダリングブロックJSの排除または遅延読み込み
- 不要なJSライブラリの削除
- JSの最小化と圧縮
- 優先コンテンツのプリロード
- ヒーローイメージやLCPとなる要素のpreload
- 重要なフォントファイルのプリロード設定
- fetchpriorityヒントの活用
- 効率的なCDN活用
- 画像、CSS、JSなど静的アセットのCDN配信
- CDNのプッシュ機能の活用
- 地理的に分散したエッジサーバーの利用
CLS改善のための施策
レイアウトシフトを軽減するための施策:
- メディア要素のサイズ指定
- すべての画像とビデオに明示的な幅と高さを指定
- aspect-ratio CSSプロパティの活用
- responsive属性の適切な使用
- フォントの最適化
- font-display: swapの使用
- Webフォントのプリロード
- 可能な場合はシステムフォントの優先使用
- 広告やコンテンツの挿入位置の最適化
- 動的コンテンツのための十分なスペースを事前確保
- 広告スロットのサイズ指定
- 遅延読み込みコンテンツの適切な配置
推奨プラグインと設定
パフォーマンス最適化に役立つプラグインと設定例:
プラグイン名 | 主な機能 | 推奨設定 |
---|---|---|
WP Rocket | 総合的なキャッシュと最適化 | 遅延画像読み込み、プリロード、クリティカルCSSの有効化 |
EWWW Image Optimizer | 画像最適化 | WebP変換、適切な圧縮レベル、遅延読み込み設定 |
Asset CleanUp | 不要なCSSとJSの読み込み防止 | ページ別の不要アセット除外、結合・最小化の有効化 |
Flying Pages | ページプリフェッチ | アイドル時のプリロード、ホバーによるプリフェッチ |
Perfmatters | 細かいパフォーマンス設定 | ハートビート制限、不要機能の無効化、遅延読み込み設定 |
パフォーマンス測定と継続的改善の方法
パフォーマンス最適化は一度で終わりではなく、継続的に測定・改善を行うプロセスです。
測定ツールと活用法
- Google PageSpeed Insights
- 実際のユーザーデータ(フィールドデータ)と実験室データを提供
- 具体的な改善提案が得られる
- 主要ページごとに定期的に測定する習慣をつける
- Google Search Console
- Core Web Vitalsレポートで全体傾向を確認
- 問題のあるページグループを特定
- モバイル・デスクトップの両方をチェック
- WebPageTest
- 詳細なウォーターフォールチャートの分析
- 異なる地域・デバイスからのテスト
- フィルムストリップやビデオによる視覚的な読み込みプロセス確認
- Chrome User Experience Report
- BigQueryを通じた詳細な実ユーザーデータ分析
- トレンド把握と長期的な改善追跡
継続的改善のためのワークフロー
パフォーマンス最適化を継続的プロセスとして組み込むためのステップ:
- 基準測定(ベースライン)の実施
- サイト全体の現状パフォーマンスを記録
- 主要ページ・テンプレート別に分類
- デバイスタイプ別(モバイル・デスクトップ)の数値を確認
- 優先度の高い問題の特定
- LCPが特に悪いページの特定
- 共通する原因パターンの分析
- 改善効果の高い施策にフォーカス
- 改善の実施と検証
- 改善策を一つずつ実装
- 各変更後の効果測定
- A/Bテストによる効果検証
- 定期的なモニタリング
- 月次パフォーマンスレポートの作成
- 新コンテンツ公開後のチェック
- WordPressアップデート後の再測定
2024年に向けたパフォーマンス対策と注意点
2024年以降のWordPressパフォーマンス最適化に関する重要な変化と対策についても触れておきましょう。
INPへの移行対応
2024年3月より、Google Core Web VitalsのFID(First Input Delay)指標がINP(Interaction to Next Paint)に置き換わりました。この変更への対応が必要です:
- INPとは:ページ上でのすべてのユーザーインタラクション(クリック、タップ、キー操作など)における応答性を測定
- 評価基準:「良好」は200ms以下、「改善必要」は200-500ms、「不良」は500ms超
- WordPressサイトへの影響:モバイルでのINP合格率(71.48%)はFID合格率(97.42%)より大幅に低いため、注意が必要
INP対策として特に効果的な施策:
- 長時間実行されるJavaScriptの最適化
- メインスレッドの負荷軽減
- イベントハンドラーとコールバックの効率化
- ブラウザのアイドル時間を活用したタスク分散
WordPress 6.5以降の活用
WordPress 6.5(2024年3月リリース)以降も引き続きパフォーマンス最適化が進んでいます:
- AVIF画像フォーマットのサポート:JPEGよりさらに効率的な画像圧縮が可能に
- Script Modules API:より効率的なJavaScriptモジュールの読み込み
- パフォーマント翻訳:翻訳ファイルの読み込みが高速化
- ブロックエディタの最適化:読み込み時間が半減、入力応答性が4倍向上
まとめ:WordPress パフォーマンス向上の未来
2023年のWordPressパフォーマンス向上データは、WordPress自体の改善とサイト管理者による最適化の両方が成果を上げていることを示しています。特に:
- WordPress 6.3の大幅なLCP改善により、全体のCore Web Vitals合格率が向上
- クライアントサイドの最適化がLCP向上に大きく貢献
- WordPressの改善がウェブ全体のパフォーマンス向上にも寄与
- FIDからINPへの移行に伴い、新たなインタラクティビティ最適化が重要に
これらの知見を活かし、自社のWordPressサイトでも、最新バージョンへのアップデート、適切なプラグイン選択、効果的な最適化施策を実施することで、同様のパフォーマンス向上を実現できます。
パフォーマンスは単なる技術的な問題ではなく、ユーザー体験とビジネス成果に直結する重要な要素です。継続的な測定と改善を通じて、訪問者により良い体験を提供し、検索エンジン評価の向上とコンバージョン率の改善を実現しましょう。
当社では、WordPress 6.5へのアップデートサポートや、Core Web Vitals改善のためのパフォーマンス診断・最適化サービスを提供しています。サイトの速度向上についてのご相談は、お気軽にお問い合わせください。