ホームページのお問い合わせフォームには、見積もりの依頼も、採用への応募も、営業メールも、同じ受付箱に届きます。毎朝それを読んで仕分けし、担当者に回し、返信を書く。1日に数件なら手作業で十分ですが、件数が増えると、それだけで朝の1時間が消えていきます。
そこで当社では、WordPressのフォームに届いた問い合わせをAIが読み、種類・優先度・要約・確認すべき点・返信の下書きをまとめて担当者に送る仕組みを作り、自社の相談フォームで動かしています。この記事では、その設計と実測、そしてAIに任せないと決めたことを紹介します。
結論から言うと、ポイントは「いつもの通知メールはAIを待たずにすぐ送り、AIの整理は裏で別に動かす」ことです。こうしておけば、AIが遅れても失敗しても、問い合わせを取りこぼしません。AIが作るのはあくまで整理メモと下書きで、返信するかどうかと内容は人が決めます。
問い合わせ対応に時間がかかる原因
問い合わせ対応で時間を取られるのは、返信を書くことそのものより、「これは何の問い合わせか」「誰が対応すべきか」「急ぎか」を判断する前段階です。フォームの項目は自由記述が多く、1通ずつ読まないと判断できません。営業メールが混ざると、それを見分ける手間も増えます。
この前段階は、毎回同じ観点で文章を読み、決まった形にまとめる作業です。AIが得意なのは、まさにこの「読んで、決まった形に整理する」部分です。一方で、お客様にどう答えるか、引き受けるかどうかは、会社としての判断です。ここを分けて考えると、AIに任せる範囲が決まります。
WordPressでAIに問い合わせを整理させる仕組み
当社で動かしている仕組みの流れは次のとおりです。

- ①フォームが送信されると、いつもの通知メールがすぐに届く(ここはAIを使わない)
- ②同時に、AIによる整理を「裏で動かす処理」として予約する
- ③予約した処理が、送信内容をAIに渡して整理させる
- ④整理結果を「AI整理メール」として担当者に送る
お客様の画面は①の時点で完了画面に切り替わるので、AIの処理を待たされることはありません。当社の実測では、フォームの送信から約15秒でAI整理メールが届きました。AIの呼び出し1回にかかった時間は14.6秒です。
AIに作らせる項目
AIには自由に書かせず、決めた項目を決めた形で返すよう指定しています(AIのAPIの「構造化出力」という機能を使い、項目と選択肢をあらかじめ決めておく方法です)。試しに、架空の工務店からの相談「フォームに見積もり依頼・採用応募・営業メールが混ざって届き、毎日20件ほどを事務の1人が朝1時間かけて仕分けしている」を渡すと、次のように返ってきました。
| 項目 | AIの整理結果(実際の出力) |
|---|---|
| 種類 | 問い合わせ処理 |
| 向き不向き | 向いている(毎日20件の定型的な仕分け・転送で件数と反復性が十分) |
| 優先度 | 高 |
| 要約 | HPフォームに見積依頼・採用応募・営業メールが混在。毎日約20件を事務1名が朝1時間仕分け転送、返信遅延も発生。 |
| 件数・時間 | 1日約20件、仕分け作業1日1時間、返信が翌日になることも多い |
| 初回に聞くこと | フォームの項目構成と現在の振り分けルール/転送先の担当者の人数と区分/問い合わせの記録台帳の有無/返信文の定型パターン |
| 返信前に確認すること | 採用応募は個人情報を含むため取り扱い範囲を確認/対象業務の切り分け/フォームの仕様とメール環境 |
| 返信の下書き | お礼、相談内容の確認、無料相談の日程候補を尋ねる文面(価格や納期の約束はしない) |
「採用応募は個人情報を含む」という注意は、こちらから指示したものではなく、AIが相談文から拾い上げたものです。担当者が見落としやすい点を先に挙げてくれるのは、実際に使っていて助かる部分です。
AIに任せないと決めていること
この仕組みで一番大事にしているのは、最終判断は人が行うことです。そのために、次のルールを仕組みの側に組み込んでいます。
- AIの返信下書きは、お客様に自動では送らない。AI整理メールにも「そのまま送らないでください」と明記する
- 下書きの中で、価格・納期・可否の約束をさせない
- 送信内容に書かれていないことを事実として書かせない。推測するときは「〜と思われる」と書かせる
- 営業メールやいたずらと思われるものは分類だけして、下書きは作らせない
- AIに渡すのは整理に必要な項目だけにする
AIの分類が外れることは当然あります。それでも、元の通知メールは必ず届いていて、人が全文を読める状態にあるので、AIの誤りがそのままお客様に届くことはありません。
ここまでのまとめ
- 問い合わせ対応の手間は「読んで仕分ける」前段階にある
- 通知メールはAIを待たずに送り、AIの整理は裏で動かす
- AIには決めた項目だけを返させ、返信は人が確認してから送る
技術者向け:WP-Cronで「裏で動かす」実装
当社の実装は自作のフォームプラグインで動かしていますが、考え方はどのフォームでも同じです。以下は、Contact Form 7向けに書き直した例です(構文は確認済みですが、Contact Form 7での動作は検証していません。my_call_ai()は、AIのAPIを呼んで決めた形のJSONを返す自作関数です)。
|
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 |
<?php add_action( 'wpcf7_mail_sent', function ( $contact_form ) { $submission = WPCF7_Submission::get_instance(); if ( ! $submission ) { return; } // AIに渡すのは必要な項目だけにする $data = array( 'name' => $submission->get_posted_data( 'your-name' ), 'message' => $submission->get_posted_data( 'your-message' ), ); wp_schedule_single_event( time(), 'my_inquiry_ai_triage', array( $data ) ); } ); add_action( 'my_inquiry_ai_triage', function ( $data ) { $result = my_call_ai( $data ); if ( is_wp_error( $result ) ) { error_log( 'AI整理に失敗: ' . $result->get_error_message() ); return; // 通知メールは送信済みなので、ここで終わってよい } $body = "■ 要約\n" . $result['summary'] . "\n\n" . '■ 種類:' . $result['category'] . ' 優先度:' . $result['priority'] . "\n\n" . "■ 返信の下書き(そのまま送らないでください)\n" . $result['reply_draft']; wp_mail( get_option( 'admin_email' ), '【AI整理】' . $result['summary'], $body ); } ); |
ポイントは3つあります。
- wpcf7_mail_sentは通知メールの送信に成功したあとに動くので、通知はAIと無関係に届く
- wp_schedule_single_eventで予約するので、AIの応答を待つ間もお客様の画面は止まらない
- AIが失敗したらログに残して終わる。問い合わせの本体は通知メールで受け取れている
注意点もあります。WP-Cronは、サイトに誰かがアクセスしたときに動く仕組みです。当社の実装では予約の直後にspawn_cron()を呼んで、すぐに処理を始めさせています。サーバー側でWP-Cronを止めている(DISABLE_WP_CRONを使っている)場合は、サーバーのcronから定期的に呼び出す設定が必要です。また、予約時に渡した値は、処理が終わるまでデータベースのoptionsテーブルに一時的に保存されます。個人情報を含む項目は必要な分だけ渡すようにしてください。
よくある質問
Q. AIが間違った分類をしたらどうなりますか?
通常の通知メールは必ず届いているので、担当者は元の内容を読めます。AI整理メールは「先に目を通すためのメモ」という位置づけで、判断は人が行います。
Q. 問い合わせ内容をAIのサービスに送っても大丈夫ですか?
使うAIサービスの利用規約とデータの扱い(学習に使われるか、保存期間など)を確認し、プライバシーポリシーにも記載したうえで使ってください。当社では、送った内容が既定でAIの学習に使われない法人向けのAPIを使い、渡す項目も必要最小限にしています。
Q. 費用はどのくらいかかりますか?
AIの利用料は、使うモデルと文章の長さ(トークン数)で決まります。今回の例では、AIに渡した量が約2,100トークン、返ってきた量が約700トークンでした。1件ずつの処理なので、問い合わせが月に数百件ある程度なら、利用料より手作業の時間のほうがずっと大きいのが一般的です。導入前に、使うモデルの料金表で1件あたりの目安を計算しておくと安心です。
問い合わせ対応をAIで軽くしたい方へ
問い合わせの自動整理は、今あるWordPressのフォームを作り直さずに、後から足せる仕組みです。当社はWordPress専門のエンジニアとして、フォームとAIを組み合わせた業務の自動化を、「AIに任せないこと」の設計から一緒に考えます。「うちの問い合わせにも使えるか」という段階からご相談ください。
▶ AI業務自動化・AIシステム開発の詳細を見る(相談無料)
更新履歴
- 2026年9月29日:作成(当社の相談フォームでの実装と、架空の相談文による実測)