最近、Web制作の現場で「WordPressはもう古い」という声を以前より頻繁に聞くようになりました。AIに指示するだけでWebサイトが数分で出来上がり、WixやWebflow、Framerのようなサービスは毎月のように新機能を出しています。開発者の間では「今さらPHPで書くのか」という空気もあります。

一方で、WordPressは今も世界最大のCMSです。世界のWebサイトの4割で使われ、ニュースサイトから小さな飲食店のサイトまで、あらゆる場所で動いています。

では、WordPressは本当に終わりに向かっているのでしょうか。

この記事では、「WordPressは衰退している」という仮説をいったん正しいものとして置き、世界シェアの推移、AIサイトビルダーの台頭、セキュリティの実態、AI検索によるWeb流入の変化という4つの角度から検証します。WordPressを擁護するためでも、批判するためでもありません。筆者はWordPress専門の開発会社を営む立場なので、都合の良い結論に寄りやすいことを自覚したうえで、WordPressに不利なデータもそのまま載せます。

なお、この記事では「調査で確認できた事実」「そこから導く分析」「将来の予測」を分けて書きます。予測は予測であることが分かる表現にします。

結論:WordPressは「終わる」のではなく、役割が変わる可能性が高い

先に結論を書きます。

2026年時点のデータで見る限り、WordPressは「終わったソフトウェア」ではありません。世界のWebサイトの40.2%、CMSを使っているサイトに限れば58.8%で使われており、2位のShopifyとは7倍以上の差があります。

しかし、成長期は終わった可能性が高いと考えるのが妥当です。利用率は2022年以降ほぼ横ばいで、2026年には低下を示すデータも出ています。ShopifyやWixのようなホスティング一体型のサービスは相対的に伸びており、新しく作られるサイトの中でWordPressが選ばれる割合は下がっていると見られます。

つまり、「今の規模」と「今の勢い」は別の話です。規模は圧倒的、勢いは鈍化。これが2026年のWordPressの現在地です。

そしてAIは、WordPressを一方的に壊す存在ではありません。AIは「WordPressを使わずにサイトを作るコスト」を下げると同時に、「WordPressを深くカスタマイズするコスト」も下げています。WordPress自身も2026年に、AIエージェントから操作されることを前提とした仕組みを本体に組み込み始めました。

したがって、この記事の結論は「WordPressは安泰」でも「WordPressはオワコン」でもなく、次のようになります。

WordPressというソフトウェアが終わるのではない。「WordPressを入れて、既製のテーマとプラグインを設定すれば価値になる」という仕事のやり方が終わり始めている。WordPressの価値は、巨大な既存資産をAIと組み合わせて何に使うかで決まる。

ここから、その根拠を順に見ていきます。

WordPressは本当に衰退しているのか:シェアの現在地

まず現在の数字を確認します。Web技術の利用状況を継続調査しているW3Techsによると、2026年9月17日時点でWordPressは調査対象Webサイトの40.2%で利用されています。CMS(コンテンツ管理システム)を使っていると判定されたサイトに限ると、WordPressのシェアは58.8%です。

出典:W3Techs「Usage statistics of content management systems」

主要なCMSと並べると、規模の差が分かります。

技術 全Webサイトに占める割合 CMS市場内のシェア
WordPress 40.2% 58.8%
Shopify 5.4% 7.8%
Wix 4.2% 6.2%
Squarespace 2.4% 3.6%
Joomla 1.1% 1.6%
Webflow 0.8% 1.2%
Drupal 0.6% 0.9%
Framer 0.2% 0.3%
Astro 0.2% 0.3%

出典:W3Techs、2026年9月17日時点

ここで注意したい点が2つあります。

1つ目は、「40.2%」の意味です。W3Techsは2,000万件超の「意味のあるWebサイト」を対象にしており、駐車ドメイン(中身のないドメイン)や重複サイトは除いています。世界中の全ドメインの40%という意味ではありません。また、同社自身が「技術を隠しているサイトもあり、100%正確な判定は不可能」と説明しています。

2つ目は、調査会社によって数字が違うことです。W3Techsは「Webサイト」を単位に、別の調査会社は「トラフィック上位サイト」や「ドメイン登録」を単位にすることがあり、母集団が違えば数字も変わります。この記事では、長期の推移が公開されていて方法が一貫しているW3Techsを主に使います。

WordPressの成長速度は明らかに落ちている:10年の推移で見る

現在の規模だけを見ると「40%もあるのだから安泰」と結論したくなります。しかし過去10年の推移を並べると、別の景色が見えます。

時点 全Webサイトに占めるWordPress利用率
2015年 23.3%
2016年 25.6%
2018年 29.2%
2020年 35.4%
2021年 39.5%
2022年 43.2%
2023年 43.1%
2024年 43.1%
2025年 43.6%
2026年1月 43.0%
2026年9月17日 40.2%

出典:W3Techs「Historical yearly trends in the usage statistics of content management systems」

2015年から2022年までの7年間で、利用率は23.3%から43.2%へ、およそ20ポイント伸びました。年に3ポイント近い急成長です。ところが2022年を境に成長は止まり、2023年から2025年は43%台で横ばいになりました。そして2026年は年初の43.0%から9月の40.2%へ、約3ポイント下がっています。

W3Techsは2025年のトレンド分析で、WordPressを「unchallenged leader(挑戦者のいない首位)」と評する一方、「no longer growing(もはや成長していない)」とも書いています。首位であることと、成長していることは両立しないという、はっきりした指摘です。

出典:W3Techs「Web Technology Trends」(2025年)

ただし、2026年の3ポイント低下をそのまま「数か月でWordPressサイトが大量に消えた」と読むのは危険です。W3Techsは検出手法を継続的に改良しており、同じ期間に「監視対象のどのCMSも使っていない」と判定されたサイトの割合も28.6%から31.5%へ上がっています。実際の市場変化に加えて、調査対象の構成や判定方法の変化が含まれている可能性があります。

出典:W3Techs「FAQ」

それでも「成長の勢いが弱まっている」という大局は、複数の数字が一致しています。CMS市場内のシェアで見ると、WordPressは2025年9月の約60.8%から2026年9月の58.8%へ下がりました。同じ期間にShopifyは6.7%から7.8%へ、Wixは5.6%から6.2%へ伸びています。W3Techsが公開する「最も成長している技術」のリストでも、2026年に目立つのはShopifyやAstroであり、WordPressではありません。

ここまでを整理すると、次のようになります。

  • 【事実】WordPressの規模は依然として圧倒的で、2位との差は7倍以上ある
  • 【事実】利用率の成長は2022年で止まり、2026年には低下を示すデータがある
  • 【事実】ホスティング一体型のサービス(Shopify、Wix)は相対的に伸びている
  • 【分析】新しく作られるサイトの中で、WordPressが選ばれる割合は下がっていると見るのが自然

「オワコン」という言葉が「もう誰も使っていない」という意味なら、それは明確に誤りです。「成長市場の中心ではなくなった」という意味なら、かなり正しいと言わざるを得ません。

なぜ「WordPressはオワコン」と言われるのか

批判の中身を整理します。よく聞く主張は、大きく4つの領域に分かれます。

技術面の批判。PHPとMySQLという20年前からの構成、投稿とメタデータを1つのテーブルに詰め込むデータ構造、プラグインを重ねるほど遅くなるパフォーマンス、ブロックエディター(Gutenberg)の評判、そしてReactやNext.jsのような現代的な開発体験との落差です。

市場面の批判。Wix、Squarespace、Webflow、Framer、Shopifyといったサービスは、サーバーもデザインもCMSも一体で提供します。「サーバーを借りてWordPressを入れてテーマを選んでプラグインを設定する」という手順自体が、面倒な作業に見えるようになりました。

開発者側の批判。若い開発者はPHPよりJavaScriptやTypeScriptを学び、CMSを使うならHeadless CMS(管理画面とAPIだけを提供し、表示は別のフレームワークで作る方式)を選ぶ傾向があります。WordPressは「学びたい技術」の候補から外れつつあります。

運営面の批判。2024年から2025年にかけて、WordPressの共同創設者が率いるAutomattic社と大手ホスティング会社WP Engineの間で法的な争いが起き、WordPress.orgへのアクセス制限にまで発展しました。オープンソースプロジェクトの意思決定が一個人や一企業に依存しているのではないか、という「ガバナンス」への不安が表面化しています。

出典:TechCrunch「WordPress vs. WP Engine drama, explained」(2025年1月)

そして最も多く聞かれるのが、セキュリティ面の批判です。「WordPressはハッキングされやすい」という印象は根強く、実際に脆弱性の報告件数は増えています。この点は後の章で詳しく扱います。

WordPressの批判はどこまで正しいのか:個別に検証する

批判を一括りに「正しい」「間違い」と決めるのではなく、1つずつ評価します。

批判 判定 根拠と補足
シェアが伸びていない かなり正しい 2022〜2025年は横ばい、2026年は低下。ただし2026年分は調査方法の影響も含む
もう誰も使っていない 明確に誤り 全Webの40.2%、CMS市場の58.8%(W3Techs)
WixやShopifyに追い上げられている 正しい 直近1年でShopify・WixのCMSシェアは拡大。ただし絶対差はまだ大きい
PHPだから古い・終わる 根拠不足 PHPのWeb利用率は低下傾向だが、サーバーサイド言語として依然非常に大きい。言語の新旧とプロジェクトの寿命は別問題
データ構造が古く遅い 条件付きで妥当 大量のカスタムフィールドや重いプラグインを重ねると遅くなる。ただし適切な設計とキャッシュで実用上の問題は回避できることが多い
プラグイン依存は弱点 強く支持される 2025年の新規脆弱性の91%がプラグイン由来(Patchstack)
WordPress本体が危険 単純化しすぎ 2025年のCore脆弱性は6件で低優先度。ただしCoreにもセキュリティ修正は発生する
開発体験が古い 条件付きで妥当 従来型のテーマ開発では事実。ただしブロック開発はReactベースで、Headless構成やAIエージェント連携も進んでいる
Gutenbergが使いにくい 印象論に近い 導入当初の混乱は事実だが、2026年時点ではブロック開発の基盤として定着している。クラシックエディターも併存
ガバナンスに不安がある 妥当 WP Engineとの争いは実際に起きた。オープンソースゆえにフォーク(分岐)の自由はあるが、コミュニティの分裂は無視できないリスク
AIサイトビルダーに駆逐される 用途によって起こり得る LP・ポートフォリオ・小規模サイトでは脅威が大きい。複雑なサイトでは当てはまりにくい

「PHPだから古い」については、少し補足します。PHPのWeb利用率が下がっているのは事実です。しかしPHP自体は8系で大きく性能を改善しており、WordPressが遅いとすれば原因は言語ではなく、プラグインの積み重ねや設計にあることがほとんどです。筆者の会社で2026年9月にWordPress 7.0.4と7.1を同じ環境に新規インストールして計測したところ、本体のバージョン差による処理時間の違いは1ページあたり10ミリ秒程度でした。「遅いWordPress」の正体は本体ではなく、その上に載せたものです。これは統計ではなく1件の実測なので、傾向を示す参考程度に受け取ってください。

それでもWordPressが簡単には消えない理由:CMSではなく経済圏

WordPressの強さを「利用者が多い」「プラグインが多い」で済ませると、本質を見誤ります。WordPressは1つのソフトウェアというより、多くの人と会社が生計を立てている経済圏です。

まず規模を確認します。WordPress.orgの公式ディレクトリには2026年時点で72,000を超える無料プラグインがあります。ElementorやYoast SEO、Contact Form 7といった主要プラグインは、それぞれ1,000万以上のサイトで有効化されています。EC機能を提供するWooCommerceは700万以上のサイトで有効化され、WooCommerce自身は「400万超のストア」を掲げています。W3Techsの分類では、WooCommerceは全Webサイトの約8.1%、EC技術の中では約48%のシェアを持ちます。

出典:WordPress.org「Plugins」
出典:WooCommerce

なお、テーマについてはWordPress.orgが「15,000超の無料テーマ」と説明する一方、検索できる現行の一覧では8,626件と表示されます。累計と現行公開中では数字が違うため、引用する際は定義の確認が必要です。

この規模が意味するのは、次のような構造です。

  • 制作会社と開発者。WordPressで作れる人は世界中にいて、日本国内でも制作会社の多くがWordPressを標準としています。引き継ぎ先に困らない
  • ホスティング。国内外のレンタルサーバーはWordPressの簡単インストールや専用チューニングを提供している
  • プラグインとテーマ。予約、会員、決済、多言語、フォーム、SEOなど、たいていの要件に既製品がある
  • 保守と教材。保守を請け負う会社、書籍、動画講座、コミュニティのノウハウが20年分蓄積されている
  • データの移行可能性。オープンソースなので、サーバーを変えても、制作会社を変えても、データとコードは自分の手元に残る

そして最も効いているのが、スイッチングコストです。WordPressを別のCMSに置き換えるには、記事本文を移すだけでは済みません。カスタム投稿、SEOのメタ情報、フォーム、会員、EC、決済、予約、多言語、権限設定、外部API連携、テーマ、そして社内の編集フロー。これらをすべて移植する必要があります。既に動いているサイトを別の仕組みに乗り換える動機は、よほどの理由がない限り生まれません。

【分析】この構造があるため、新規シェアが伸びなくなっても、既存のインストール基盤は長期間維持されやすいと考えられます。「成長は止まったが、巨大な成熟市場として残る」というシナリオの根拠はここにあります。

一方で、「オープンソースだからロックイン(囲い込み)がない」とは言い切れません。Elementor固有のデータ形式、特定テーマの独自機能、WooCommerceの拡張プラグインに深く依存すれば、WordPressの内部でも移行コストは生まれます。正確に言えば、WordPressは「ロックインがゼロ」なのではなく、「自分でホストし、コードとデータに直接触れる選択肢を維持しやすい」プラットフォームです。

WordPressは実は大企業でも使われている

「WordPressは個人ブログ用」という印象も根強いですが、2026年時点の公式事例を見ると実態は違います。

Automattic社のエンタープライズ向けサービスWordPress VIPは、700を超える企業顧客を掲げ、Capgemini、Pew Research Center、The Times、Ford Foundation、ADWEEKなどの事例を公開しています。カタールのメディアAl Jazeeraは、WordPressを管理画面とデータの基盤に使い、表示部分は別のフレームワークで作る「Headless WordPress」の代表事例として紹介されています。

出典:WordPress VIP

The Timesの事例では公開作業の効率が34%向上、ADWEEKの事例では移行後にコンテンツ制作が3倍、トラフィックが82%増加したとされています。ただし、これらはWordPress VIP自身が公開している顧客事例であり、第三者による比較試験ではありません。数字はその前提で読む必要があります。

WordPress.orgのショーケースにも、Rolling Stone、TIME、NASA、Microsoft、TechCrunch、Harvardなどが掲載されています。もっとも、ロゴが載っているからといって、その組織のWebインフラ全体が現在もWordPressだとまでは言えません。特定のメディアやキャンペーンサイトだけがWordPressというケースも含まれます。

【分析】それでも、大規模メディアや企業のコンテンツ基盤としてWordPressが現役であることは、これらの事例から確認できます。「大企業は使っていない」という批判は、2026年時点では成り立ちません。

AIサイトビルダーはWordPressを脅かす:小規模サイトの市場が変わる

ここからAIの話に入ります。まず、WordPressにとって不利な側面です。

2026年に入り、主要なサイトビルダーはAIによるサイト生成を前面に出しています。Wixは会話型AIでサイトを作る機能を打ち出し、WebflowはAIで複数ページのサイトを数分で生成する機能に加えて、2026年9月にはAIによるコードコンポーネント生成やMCP連携を拡張しました。Framerは2026年6月に「Framer Agents」を発表し、AIがサイトを「構築し、維持し、改善する」方向へ進んでいます。SquarespaceもAIを使ったサイト生成を提供しています。

出典:Wix「AI-powered web creation」(2026年7月)
出典:Webflow「AI Site Builder」(2026年)
出典:Framer「Framer Agents」(2026年6月)

さらに、Lovable、Replit、v0のような「指示するだけでWebアプリやLPを生成する」ツールも普及し始めています。

これらが直撃するのは、従来WordPressが大量に受注してきた市場です。具体的には、5〜10ページの企業サイト、飲食店や美容室のサイト、個人事業主のサイト、キャンペーン用のLP、ポートフォリオ。いずれも複雑なバックエンド処理を必要としません。

これまでの制作の流れは「サーバーを用意し、WordPressを入れ、テーマを選び、プラグインを入れ、固定ページを作り、フォームを設定する」でした。この作業に制作費を払う合理性は、AIが数分で同等のものを作れるようになるほど薄れます。

【分析】小規模な企業サイトやLPでは、WordPressを使う理由が弱くなる可能性が高いと考えられます。ただし、これはWordPress固有の問題ではありません。「人がツールを操作してサイトを組み立てる」という仕事全体がコモディティ化している、と捉えるほうが正確です。Webflowで手作業する仕事も、同じ圧力を受けています。

AIがWordPressの下の層(単純なサイト)を奪い、上の層(複雑なカスタマイズ)を広げる二面性のイメージ

しかしAIはWordPress開発も劇的に楽にする:巨大な既存資産との組み合わせ

次に、WordPressにとって有利な側面です。ここが2026年のWordPressを考えるうえで最も見落とされやすい論点です。

Claude Code、Cursor、GitHub Copilotのようなコーディング支援AIやAIエージェントは、これまで専門知識が必要だった作業のコストを下げています。WordPressで言えば、独自プラグインの開発、テーマの開発、REST APIを使った外部連携、WooCommerceの業務フローのカスタマイズ、カスタム投稿タイプの設計、管理画面の作り込み、業務システムやSaaSとの連携などです。

以前なら、これらにはPHPとJavaScriptを書ける開発者が必要でした。AIエージェントが実装とテストを肩代わりできるようになると、「ゼロから独自システムを作る」より「既に巨大なAPIとエコシステムを持つWordPressを土台にする」ほうが有利になる場面が出てきます。20年分のプラグイン、ドキュメント、Q&A、ソースコードがAIの学習データにも含まれているため、AIはWordPressのコードを比較的うまく書けます。

そしてWordPress自身が、この方向に舵を切っています。

  • AI Client(WordPress 7.0、2026年5月)。WordPressから生成AIモデルへ接続するための共通基盤が本体に入りました。特定のAI会社に依存しない設計です。7.1ではストリーミングやEmbedding関連の機能が進んでいます
  • Abilities API。WordPress上の機能を「AIが呼び出せる能力」として登録する仕組みです
  • MCP Adapter(2026年2月)。Claude DesktopやClaude Code、Cursor、VS CodeなどのAIツールから、WordPressの機能を発見して呼び出せるようにする公式の接続層です
  • コーディングエージェント向けのPlaygroundスキル(2026年1月)。AIエージェントがプラグインやテーマを開発し、ブラウザ内のWordPressで反復テストしやすくする取り組みです
  • Core AI Team。Make WordPressにAI関連の活動を調整する正式な貢献チームが置かれています

出典:WordPress「Introducing WordPress MCP Adapter」(2026年2月)
出典:Make WordPress「Core AI Team」

筆者の会社では2026年9月に、ローカルのWordPress 7.1にMCP Adapterを導入し、「投稿の下書きを作る」という独自の能力を登録して、AIツールと同じ手順(JSON-RPC)で呼び出す検証を行いました。認証なしのアクセスは拒否され、権限の低いユーザーでは実行が拒否され、管理者権限では実際に下書きが作成されました。まだバージョン0.6系で仕様変更は続いていますが、「AIエージェントからWordPressを操作する」仕組みは、構想ではなく動くものとして存在しています。これも1件の検証であり、成熟度を保証するものではありません。

【分析】ここから、逆説的な見方が導けます。

AIが普及すると下がるのは、WordPressの価値ではなく「既製テーマを設定するだけの制作」の価値である。逆に「WordPressを既存のコンテンツ・EC・会員・業務データの基盤として、AIから自由に拡張する能力」の価値は上がる可能性がある。

AIサイトビルダーがWordPressの下の層(単純なサイト)を奪う一方で、AIコーディングはWordPressの上の層(複雑なカスタマイズ)を広げる。2つの動きは同時に起きています。

AI時代、WordPressのセキュリティリスクは高まるのか

セキュリティは「WordPressは危険」という印象が最も強い領域です。ここは数字を丁寧に見ます。

脆弱性の報告数は増えているが、本体の問題ではない

WordPressのセキュリティ企業Patchstackの「State of WordPress Security in 2026」によると、2025年にWordPressエコシステムで確認された新規脆弱性は11,334件で、前年比42%増でした。そのうち実際の脅威になり得るものは4,124件(36%)、大量の自動攻撃につながり得る高優先度のものは1,966件(17%)と分類されています。

出典:Patchstack「State of WordPress Security in 2026」(2026年2月)

ここで最も重要な数字があります。

2025年の新規脆弱性のうち、91%はプラグイン、9%はテーマに由来し、WordPress本体(Core)で報告されたものは6件だった。しかもPatchstackの分類では6件とも低優先度だった。

つまり「WordPress本体が脆弱だから危険」という説明は正確ではありません。正確に言えば、「WordPressは非常に巨大なサードパーティのエコシステムを持つため、拡張機能全体を含めた攻撃面が大きい」ということです。

脆弱性の発生源 2025年の割合
プラグイン 91%
テーマ 9%
WordPress本体(Core) 6件(全体の0.1%未満、いずれも低優先度)

出典:Patchstack、同上

もちろん本体が無敵という意味ではありません。2026年8月のWordPress 7.0.3では、ログイン画面に関するXSS(スクリプト混入)など複数のセキュリティ問題が修正され、自動バックグラウンド更新で配信されました。本体の更新を止めていれば、この修正は届きません。

本当の問題は「攻撃される速さ」

Patchstackの2025年の観測では、影響の大きい脆弱性のおよそ半数が、公開から24時間以内に最初の攻撃を受けていました。攻撃量で重み付けした「大量攻撃が始まるまでの中央値」は約5時間です。さらに、脆弱性の46%は公開時点で開発元から修正版が出ていませんでした。2025年に最も攻撃された上位10件のうち、その年に公開されたものは4件だけで、残りは以前から知られていた古い脆弱性でした。

これらが示すのは、「月に1回まとめて更新する」という運用では反応速度が足りない可能性です。放置された古いプラグインが、何年経っても狙われ続けています。

ただし、「報告件数が42%増えた=WordPressのコード品質が42%悪化した」ではありません。Patchstack自身が有料プラグインの調査を強化しており、研究者の数や検出能力の向上も報告件数を押し上げます。「見つかった脆弱性」「実際に悪用可能な脆弱性」「実際に攻撃された脆弱性」は分けて考える必要があります。

なぜWordPressが狙われるのか

攻撃者にとってWordPressを狙う理由は、技術的な弱さより経済合理性です。同じプラグインが10万、100万、1,000万のサイトで使われているため、1つの攻撃手法が有効なら、それを自動化して大量のサイトに適用できます。1,000万サイトで有効化されているプラグインに脆弱性が1つ見つかれば、それだけで巨大な攻撃面になります。シェアが大きいことそのものが、攻撃を引き寄せる構造です。

筆者の会社で対応したマルウェア被害では、サイトを開くと海外のカジノサイトへ転送される改ざんが起きていました。サーバーに入って調べると、画像を置くフォルダにPHPファイルが仕込まれ、見覚えのない管理者アカウントまで追加されていました。入口は更新されていない古いプラグインでした。個別の事例ですが、Patchstackの統計が示す「古い脆弱性が狙われ続ける」という構図と一致しています。

AIによる攻撃はどこまで現実なのか

「AIで攻撃が増える」という話は推測で語られがちなので、研究と実態を分けて整理します。

研究室レベルで実証されていること。2024年のFangらの研究「LLM Agents can Autonomously Exploit One-day Vulnerabilities」では、既に公開されている15件の脆弱性を対象に、CVE(脆弱性の識別番号)の説明文を与えられたGPT-4のエージェントが87%を攻略しました。ただし、説明文を与えない場合の成功率は約7%でした。「AIが未知の脆弱性を自在に見つける」段階ではなく、「公開された脆弱性情報があれば攻撃コードを組み立てられる」段階だと読むのが妥当です。

出典:Fang et al.「LLM Agents can Autonomously Exploit One-day Vulnerabilities」(2024年4月)

2025年のRapidPenという研究では、IPアドレスだけを与えたAIエージェントが、偵察から侵入までを自動で行う実験が報告されています。既知の成功例を利用できる条件で約60%の成功率、所要時間は200〜400秒程度でした。これは実験環境の結果であり、実際の攻撃統計ではありません。

現実世界で確認されていること。Googleの脅威分析チーム(Google Threat Intelligence Group)は2026年9月の報告で、攻撃者のAI利用が「単純なプロンプト利用から、エージェント型のワークフローや自動化へ段階的に移行している」と述べています。脆弱性調査、マルウェア開発、偵察、ソーシャルエンジニアリングなど複数の工程でAI利用が確認されており、AIコーディングツールで難読化コードを書いたり、防御を回避しようとした事例、AIでフィッシング基盤のコードを生成して大規模運用した事例も含まれています。同時にGoogleは、「完全に自律した攻撃へ一気に移行した」わけではなく、段階的な成熟だと説明しています。

出典:Google Threat Intelligence Group「From Prompting to Autonomy」(2026年9月)

2026年時点で最も正確な表現は、次のようになります。

「AIが原因でサイバー攻撃が○%増えた」と断定できる統計はまだない。しかし、実在する攻撃者がAIを攻撃工程に組み込み始めており、研究では脆弱性攻略の自動化が急速に実証されている。

WordPressにとって厄介なのは、この能力と「巨大で均質な標的」の組み合わせです。同じプラグインが何百万サイトで動いているという構造は、自動探索との相性が良すぎます。

AI時代の運用は「更新しましょう」では足りない

ここまでのデータから、今後の運用に必要なものが見えてきます。

  • 自動更新、または公開から数時間以内のパッチ適用
  • 使っていないプラグインとテーマの削除
  • 管理者アカウントの最小化と二要素認証
  • 毎日のバックアップと復元手順の確認
  • WAF(Webアプリケーションファイアウォール)や仮想パッチによる、修正版が出る前の防御
  • 脆弱性情報の継続的な監視
  • 本番に適用する前のステージング環境でのテスト

目標は「脆弱性をゼロにする」ことではなく、「公開から数時間で攻撃されても耐えられる運用」に移ることです。Patchstackの「中央値5時間」という数字は、週次や月次の人手チェックでは間に合わない可能性を示しています。

WordPress側も止まってはいません。公式ディレクトリのレビュー、Tideというプラグインとテーマの自動テストプロジェクト、Core AI Teamなどが並行して進んでいます。

WordPressとNext.js・Webflow・Framerを単純比較してはいけない

「WordPress vs Next.js」「WordPress vs Webflow」という比較記事をよく見かけますが、これらは同じ層の技術ではありません。

技術 何をするものか 提供形態
WordPress CMS兼アプリケーション基盤。コンテンツ・ユーザー・権限・プラグインの仕組みを持つ オープンソース。自分でホストする
Next.js Webアプリケーションを作るためのフレームワーク。CMSではない オープンソース。表示と処理の枠組みを提供
React 画面を作るためのライブラリ。CMSでもフレームワークでもない オープンソース
Webflow / Wix / Framer / Squarespace デザイン・CMS・ホスティングが一体になったサービス 運営会社のプラットフォーム上で動く
Shopify EC特化のプラットフォーム。決済・在庫・配送まで一体 運営会社のプラットフォーム上で動く
Contentful / Sanity / Strapi Headless CMS。管理画面とAPIだけを提供し、表示は別に作る SaaSまたは自前ホスト

Next.jsはWordPressの代わりになるものではなく、WordPressと組み合わせるものでもあります。Al Jazeeraの事例のように、WordPressを管理画面とデータの基盤として使い、表示をNext.jsやAstroで作る「Headless WordPress」構成は、エンタープライズで実際に運用されています。

「本格的なWebアプリを作るならNext.js」という判断は正しいことが多いですが、それはWordPressが劣っているからではなく、CMSとアプリケーションフレームワークの役割が違うからです。逆に「コンテンツを継続的に管理し、権限を分け、編集フローを回す」という要件に対して、Next.jsだけで済ませようとすると、結局CMSを自作することになります。

Webflow、Wix、Framerとの違いは、技術より「誰がホストし、誰がデータを持つか」にあります。これはOpen Webの話として、後で扱います。

用途によってWordPressの勝ち負けは大きく違う

WordPressを一括りに評価するのは無理があります。用途ごとに、将来性を5段階で評価します。

評価基準は次のとおりです。1は将来性がかなり低い、2は徐々に競争力が落ちる、3は成熟市場として残る、4は今後も有力、5はAI時代にさらに価値が上がる可能性。

用途 評価 理由 強い代替候補
ブログ 3 20年分の編集・SEO・拡張の資産が強い。ただし個人ブログの新規開設ではnoteやSaaS、AI生成が増え、成長は見込みにくい Ghost、note、SaaS型CMS
小規模企業サイト 3 既存サイトは残るが、新規制作ではAIサイトビルダーが合理的な場面が増える。「複雑なら WordPress、単純ならAI SaaS」に分かれていく Wix、Webflow、Framer、Squarespace
オウンドメディア 4 編集フロー、権限管理、カテゴリ設計、SEO資産、担当者の育成しやすさで依然強い Headless CMS
ニュースサイト 4 WordPress VIPの事例が示すとおり、大規模メディアの基盤として現役。Headless構成との相性も良い Headless CMS+独自フロント
EC 3 WooCommerceは400万超のストアを持つが、Shopifyが運用の簡単さでシェアを伸ばしている。自由度を取るならWoo、手間を減らすならShopify Shopify
会員サイト 3 プラグイン資産は豊富だが、プラグインを重ねるほど保守負債とセキュリティリスクが増える。AIによる独自実装で4に上がる余地がある SaaS、独自開発
LP 2 AI生成とホスティング一体型のほうが速く安い。WordPressを使う理由は「既存サイトと同じ管理画面で済む」程度になっていく Framer、Webflow、Wix、v0
Webアプリ 2 CMSとアプリケーションフレームワークは別の層。リアルタイム処理や複雑なUIが主目的なら、CMSを中心に設計する必要性が薄い Next.js等
独自の業務機能を持つサイト
(予約・見積・会員に業務連携が絡むもの)
4 既存のコンテンツ・顧客・商品データを持つWordPressを土台に、AIで独自機能を足す構成が現実的になってきた。MCP AdapterやAbilities APIはこの方向 独自開発、SaaS組み合わせ

【分析】評価を並べると、WordPressが弱いのは「単純すぎる用途」と「複雑すぎる用途」の両端で、強いのは「継続的に管理されるコンテンツと業務データがある中間帯」だと分かります。この中間帯は、企業サイトの大半を占めます。

WordPressより先に「Webサイト」が変わるかもしれない

ここで視点を一段上げます。WordPressの将来を考えるとき、WordPressだけを見ていると本質を外します。より大きな問いは、「AI時代に、人間はWebサイトを訪問するのか」です。

AI検索はクリックを減らしている

2025年、Pew Research Centerによる検索行動の研究を報じた分析では、GoogleのAI要約(AI Overview)が表示された検索で通常の検索結果がクリックされた割合は約8%、AI要約が表示されない検索では約15%でした。AI要約の中に引用されたリンクがクリックされた割合は約1%です。少なくとも一部の検索では、AIが情報源へのクリックを半減させる方向に働いています。

出典:Search Engine Land(Pew Research Centerの研究を報道、2025年7月)

AIクローラーは読むが、送客しない

Cloudflareの2025年6月のデータでは、OpenAIのクローラーがコンテンツを取得した回数と、そこからサイトへ人を送った回数の比率は約1,700対1でした。Anthropicは約73,000対1です。Googleの検索クローラーは「読む代わりに訪問者を送る」という取引でWeb経済を成り立たせてきましたが、AIクローラーとの関係はそれとは異なります。

同社は、2024年5月から2025年5月にかけてGPTBotのリクエストが305%増えたこと、2026年6月時点で分類したクローラーリクエストの52%がAI学習用途になったことも報告しています。CloudflareはAIクローラーの許可・拒否の設定に加え、クロールに対して課金する「Pay per Crawl」という実験も始めました。「WebのコンテンツをAIに無償で読ませるべきか」というWebの基本的な取り決めが、既に再交渉の段階に入っています。

出典:Cloudflare「Control content use for AI training」(2025年7月)
出典:Cloudflare「Agentic Internet Bot Report」(2026年7月)
出典:Cloudflare「Introducing Pay per Crawl」

これはWordPressだけの問題ではない

ここが肝心な点です。Webflowで作っても、Next.jsで作っても、WordPressで作っても、検索結果からユーザーが来なければ、ページビューに依存するビジネスは同じ影響を受けます。ニュースサイト、ブログ、比較サイト、アフィリエイトサイトは、CMSの種類に関係なく、同じ圧力の下にあります。

したがって「AIによってWordPressが終わる」という問いの立て方は、的を外しています。正しい問いは、「AIによって『検索順位を取り、人をページへ呼ぶ』というWebサイトの役割そのものが変わる。その変化の中で、WordPressは何になるのか」です。

【分析】Webサイトが消える可能性より、役割が変わる可能性のほうが高いと考えられます。従来の経路は「検索 → Webページ → 広告・問い合わせ・購入」でした。AI時代には「AIが情報を取得して要約 → 必要なときだけ公式サイトへ → 取引・信頼確認・一次情報の確認」という経路が増えるでしょう。この場合、Webサイトは「すべての情報を人間に読ませる場所」から、「AIにも人間にも読める企業の一次データベース、ブランドの正本、取引の場所、認証された情報源」に近づきます。

この世界でCMSの役割は消えるどころか、「構造化された信頼できるコンテンツを継続管理する仕組み」として残る可能性があります。WordPress VIPが2026年に自社を「AIエージェント対応のコンテンツ基盤」と位置づけ、「content as infrastructure(インフラとしてのコンテンツ)」を掲げているのは、この変化を意識した動きです。ただしこれはベンダー自身の戦略的な位置づけでもあるので、割り引いて読む必要があります。

Open Webの意味は、AI時代に増すのか減るのか

WordPress.orgは今も、ソフトウェアの「4つの自由」を掲げています。任意の目的で実行する自由、動作を研究して自分の望むように変更する自由、再配布する自由、改良して公開する自由です。自分のサーバーで動かせる、データを手元に置ける、ホスティング会社を変えられる、ソースコードを変えられる、運営会社がなくなってもソフトウェアは残る。これがWordPressの設計思想で、Wix、Shopify、Webflow、Framerのように、ホスティング・CMS・デザイン・データ・決済・APIを運営会社に依存するモデルとは対照的です。

出典:WordPress.org「About」

この違いがAI時代に重要になるかどうかは、両方の可能性があります。

重要になる可能性。AIクローラーへの対応(robots.txtやAIクローラーのポリシー)、独自API、MCPによるAIとの接続、認証、コンテンツのライセンス条件。これらを自分で設計できるのは、自分でホストしているからです。SaaSでは運営会社の方針に従うしかありません。AIとWebの取り決めが再交渉されている今、「自分のコンテンツをどう扱わせるか」を自分で決められる価値は上がる可能性があります。

重要でなくなる可能性。一般の事業者にとって、自由よりも「面倒がないこと」のほうが価値が高いのも事実です。運営会社がAI対応を一括で提供してくれるなら、自分で設計する自由は使われない自由になります。小規模サイトでは、この可能性のほうが高いかもしれません。

【分析】Open Webの価値は、サイトの規模と、コンテンツを「資産」として扱う意識の強さに比例して残ると考えるのが妥当です。

3年後・5年後・10年後のWordPress

ここから先は予測です。確認された事実ではなく、これまで見てきた推移、SaaSの伸び、WordPressのAI対応、セキュリティ環境、AI検索の進展を組み合わせたシナリオとして読んでください。

2029年:世界最大のCMSのまま、利用率はやや低下

比較的予測しやすい近未来です。最も可能性が高いのは、WordPressが世界最大のCMSの地位を維持しつつ、全Webサイトに占める利用率は現在より少し下がるケースです。全Webの37〜41%、CMS市場の54〜59%程度を基本の想定とします。

制作の現場では、既製テーマを人手で設定する仕事が減り、AIエージェントを使った独自ブロック、プラグイン、API連携、WooCommerceの業務自動化などに価値が移る可能性が高いと考えられます。制作会社は「作って納品して終わり」より、保守、セキュリティ、AIワークフロー、コンテンツ管理、CRMやECとの統合を継続して提供する会社のほうが強くなると予測します。AIで実装の単価が下がるほど、業務知識と運用責任の価値は相対的に上がります。

2031年:管理画面より「データとAPI」が重要になる

AIエージェントがWeb制作の中心になった場合を想定します。基本の想定は全Webの34〜40%、CMS市場の50〜58%程度です。

この世界では、WordPressを人が操作するのではなく、「このサイトに商品カテゴリと会員権限を追加して、ステージングでテストして問題なければ本番に反映して」とAIに依頼する運用が一般化している可能性があります。そうなると、管理画面の使いやすさより、データモデル、API、権限設計、エコシステム、そして「AIが安全に呼び出せる機能」のほうが重要になります。MCP AdapterやAbilities APIは、まさにこの方向を向いています。

一方、単純な会社案内サイトでは「CMSを選ぶ」という行為自体が薄れ、Wix、Framer、Webflowの後継となるAIエージェントに「会社のサイトを作って」と頼むだけになる可能性が高いでしょう。現在のAIサイトビルダーは、その初期形態と見ることができます。

2036年:不確実性が高いため、5つのシナリオで考える

10年後は不確実性が非常に高く、単一の予測は意味を持ちません。以下のシナリオは互いに排他的ではなく、「巨大CMSのまま」「Headless化」「AI基盤化」は同時に起こり得ます。確率は3段階で示します。

シナリオ 確度 根拠 成立条件 反証となる要因
A. 巨大CMSとして残る CMS市場58.8%と巨大な既存資産は10年で消えにくい スイッチングコストが維持され、既存サイトが更新され続ける 大規模な移行ツールの登場、ガバナンス崩壊によるコミュニティ分裂
B. 巨大なレガシーCMSになる 中〜高 新規案件をSaaSとAIに奪われ、保守市場だけが残る。現在の停滞傾向と整合する 新しい人材と新しいサイトがWordPressを選ばなくなる AI対応の成功、Headless構成の普及
C. AI開発基盤として進化する 中〜高 AI Client、MCP、Abilities APIが2026年時点で既に本体に入っている AIエージェントからWordPressを安全に操作・拡張できる仕組みが標準化する セキュリティ事故の多発、SaaSがより優れたAI基盤を先に確立する
D. Webサイトへの人間の訪問が大きく減る AI検索によるクリック減少と、クローラーと送客の非対称性が既に観測されている AI検索とAIエージェントによる情報取得が主流になる AI企業と出版社の間で送客や対価の仕組みが確立し、Webへの訪問が維持される
E. Headless / API型CMSとして残る エンタープライズでは既にHeadless WordPressの事例がある フロントエンドの多様化が進み、コンテンツ基盤だけが求められる Headless CMS専業サービスが編集体験で上回る

2036年のWordPressの全Web利用率は、27〜38%程度を基本の幅と考えます。AIエージェント向けのオープンなCMS基盤として標準的な位置を取れれば30%台後半を維持する可能性があり、AI SaaSによる新規サイト生成が標準になれば20%台へ下がることもあり得ます。

ここで押さえておきたいのは、仮に30%まで下がっても「オワコン」とは言えないことです。現在の40.2%という基盤が異常に大きいため、10ポイント落ちても依然として2位以下を大きく引き離します。

逆に、最大のリスクはシェアの数字そのものではありません。新しい人材、新しいサイト、新しい用途がWordPressを選ばなくなることです。今回の調査では「若い開発者がWordPressを選ばなくなった」と直接示す代表性の高いデータは確認できなかったため、この記事では断定しません。ただし、SaaS型CMSやAstroの成長、PHPのWeb利用率の低下、AI生成型のWeb制作の進展は、その仮説と矛盾しない間接的な兆候です。

したがって、10年後に最もありそうなのは「WordPressは消えない。しかし2020年代前半と同じWordPressでもない」という未来です。人がテーマを探してプラグインの設定画面を行き来するCMSから、コンテンツ・商品・顧客・権限・業務データを保持し、AIエージェントやさまざまなフロントエンドから操作されるオープンなバックエンドへ変われるかどうかが、次の10年を左右します。

結論:WordPressは本当にオワコンなのか?

この記事の冒頭で立てた「WordPressは衰退している」という仮説に、2026年のデータで答えます。

部分的に正しい。成長は2022年で止まり、2026年には低下を示すデータがあります。新規サイトの市場ではShopifyやWix、AIサイトビルダーにシェアを奪われています。脆弱性の報告数は増え、攻撃は公開から数時間で始まります。ガバナンスへの不安も表面化しました。これらを軽く見るべきではありません。

しかし「終わった」は誤り。全Webの40.2%、CMS市場の58.8%、72,000超のプラグイン、400万超のWooCommerceストア、700超のエンタープライズ顧客。この規模と、乗り換えの難しさが、成長が止まっても基盤を長く維持させます。WordPress自身も、AIエージェントから操作されるCMSへ本体を作り替え始めています。

AI時代に弱くなるのは、WordPressというソフトウェアより、WordPressを人力で組み立てることを商品にしてきた仕事のやり方です。逆に、既存のコンテンツ・EC・業務データという巨大な資産をAIで再利用できるプラットフォームとして、第二の寿命を得る可能性もあります。

そのうえで、「WordPressを使うべきか」に一律の答えはありません。用途によって最適解は変わります。

  • 小規模なLPや会社案内なら、FramerやWebflowのようなAI一体型のサービスが合理的な場合がある
  • 本格的なWebアプリなら、Next.jsのようなフレームワークが適している
  • ECなら、運用の手間を減らしたい場合はShopifyが適しているケースも多い
  • 継続的に管理されるコンテンツが中心のサイトなら、WordPressは依然として強い
  • 予約・見積・会員など独自の機能を持つサイトなら、「AI+WordPress」という選択肢が現実的になってきた

最後に、問いの立て方を変えることを提案します。

「WordPressはなくなるのか」という問いは、実はあまり生産的ではありません。データが示すとおり、10年後もWordPressは大量に存在しているでしょう。問うべきなのは、「これからWordPressが何に使われるのか」のほうです。

AI検索が回答を生成し、AIエージェントが商品を探し、比較し、予約し、購入するようになれば、Webサイトの見た目やCMSの管理画面より、構造化されたデータ、API、権限、出典、信頼性、所有権が重要になります。AI要約によるクリックの減少と、AIクローラーの読み込みと送客の非対称性は、その変化が既に始まっていることを示しています。

その世界で、20年分のコンテンツと業務データを持ち、自分でホストでき、AIから操作できるようになりつつあるWordPressが、何の基盤になるのか。答えはまだ出ていません。ただ、その問いに向き合っている人にとって、WordPressは「オワコン」ではなく、まだ使い道を決めている途中の道具です。

この記事は、WordPressのカスタマイズ・プラグイン開発・保守を専門とする合同会社Edel Heartsが、2026年9月時点の公開データをもとに執筆しました。文中の「筆者の会社での検証・対応事例」は統計ではなく個別の経験であり、傾向を裏付ける参考情報として記載しています。

「今のWordPressサイトを続けるべきか、乗り換えるべきか」「独自機能をAIで足せるか」といった判断は、サイトの用途と資産によって答えが変わります。当社では、既存サイトの技術顧問として継続的にご相談いただく形と、カスタマイズ・プラグイン開発としてAIを活用した独自機能の実装をお受けしています。まずは無料相談からお気軽にどうぞ。

この記事を書いた人

矢部 敦

矢部 敦合同会社Edel Hearts 代表

WordPress専門の開発会社を経営。プラグイン開発・カスタマイズ・保守を専門とし、18時間におよぶUdemyのWordPress講座を開講。出典付きで回答するAIチャットボット「Edel AI Hybrid Chat」開発者。著書『WordPress はじめての最小プラグイン』(Kindle)。本ブログの記事は、実際の開発・運用で得た一次情報をもとに執筆しています。会社情報はこちら

この記事をシェア